網膜は、目のフィルムに当たる組織で、その中央部分のもっとも視力のいい部分を黄斑といいます。加齢性黄斑変性は、この部分か、周囲の組織に異常な加齢変化が起こり、機能が低下し視力が低下してしまう病気です。アメリカでは中途失明率の第1位を占める病気で、我が国でも増加傾向にあります。
加齢黄斑変性には萎縮型と滲出型のふたつのタイプがあります。病気の進行の仕方や治療の方法が異なります。
萎縮型では年齢とともに黄斑の組織が萎縮してきます。加齢黄斑変性のほとんどを占めています。黄斑組織の老化現象が過度に進んだものと思われますが、詳しい原因はわかっていません。このタイプの黄斑変性では、進行はゆっくりで、萎縮部分が拡大し黄斑部の中央部分にかからない限り、視力障害は軽度です。
滲出型と呼ばれるタイプは、網膜を栄養する脈絡膜(網膜の外側の膜)に異常な新生血管が発生し、黄斑部網膜に伸びてくるタイプです。新生血管の血管壁は大変もろいために、血液や血液成分が黄斑組織内に滲出し(漏れ出し)、黄斑機能を障害し、強い視力障害を起こします。進行は、萎縮型より早く、近年増加傾向にあります。
原因ははっきりしませんが、危険因子として欧米型化された食生活、動脈硬化や高血圧などの循環器障害、喫煙、太陽光などが考えられています。また、遺伝なども関与していると考えられています。発症率は、男性が女性の3倍といわれています。
加齢黄斑変性のなかでも、滲出型の方の症状が強く、ここでは滲出型を中心に説明します。年齢的には60〜70代に最も多くみられます。平成5年の調査では人口10万人あたり35人で、男性に多く、3分の1は両眼性です。
症状は、物を見ようとする中心の一部に見にくい場所があらわれ、やがて物がゆがんで見えるようになります。進行が遅いので自覚しにくく、見えない範囲が大きくなったり、急に見えなくなって気づくことが多いようです。
両目に起きるときは、時間的にずれて進行します。3人にひとりは、やがて健康な目の方にも同じような症状があらわれてきます。目は2つあるため、片目に症状がでても気づきにくいものです。早期発見のためには、時々片目ずつ見え方をチェックすることが大切です。障子のような格子縞を片眼ずつみることで、簡単な自己検査ができます。
図3:本来見られる中心窩の陥凹が消失し、網膜の下方の浸出液が貯留している。
萎縮型の黄斑変性は、非常にゆっくり進行しますので、通常経過観察だけで住むことが多いのですが、なかには萎縮型から滲出型へ変化して、急激に悪化することがあります。定期的な眼底検査による経過観察は欠かせません。
滲出型の場合、黄斑変性を起こす原因の新生血管を見つけることができるか、という点が重要になります。蛍光眼底検査などを行い、眼底の血管の状態を詳しく調べる必要があります。
治療方法としては、新生血管をレーザー光線で焼きつぶす、レーザー光凝固術、手術療法、放射線療法などが行われていましたが、確実なものはありませんでした。
2004年になり、光線力学療法 という治療法が始められました。この方法は、光に対する感受性をもつ光感受性物質を静脈に注射し、非熱性の半導体レーザーを当てて、その光感受性物質に化学反応を起こさせます。新生血管の血管内皮細胞が破壊され、血管が閉塞します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織への影響はほとんどなく、視力は障害されません。有力な治療手段となるのではないかと注目されています。